2008年04月08日

屋上にはナナシがいた


495 :藤:2008/04/08(火) 00:29:59 ID:+ntRsPHMO
昨日、無事に就職したことを報告する為に、今は亡き親友の墓参りに行って来た。
その小さな墓前には、あいつの好きだった忽忘草の押し花が置かれていた。
『死んだ人間は生きてる人間が覚えててくれるけど、
 死んだ人間に忘れられた生きてる人間は、どうすればいいんだろうな』
そんなふうに笑っていたのを思い出す。
そして思い出す。あの日の事を。

その日、前日の夜のことを引きずったまま僕は学校に行った。
やっぱりナナシはいなくて、アキヤマさんは何事も無かったように教室にいた。
話し掛けてみたが、やはりいつもと変わらなくて、昨日のことは全部夢か嘘みたいに思えた。
そうだ、あの変なものは、たまたまかち合ってしまっただけだ。
あの悲鳴は、ナナシがタンスに足でもぶつけたんだ。
そんなふうに無理矢理解釈しようとした。

そして授業が終り、僕は荷物をまとめていたその時に、
「藤野、ちょっと、い?」
アキヤマさんが僕を呼び止めた。
「何?」と聞き返すが、アキヤマさんは「ちょっとついてきて」と言うだけだった。
仕方なく僕は、アキヤマさんの後に続くことにした。

連れて来られたのは、僕も何度かお世話になった大きな病院だった。
アキヤマさんは無言で中に入り、僕も後を追ううちに、屋上にやってきた。
…寒気がした。そこは、ナナシの持つお母さんとの写真に写っていた、あの場所だったから。
「こっからね、おばさんは落ちたんだよ」
アキヤマさんは言った。ゾッとするほど淡々とした声だった。
「あたしがお見舞いに来たときにね、落ちてきたの。あたしの目の前に。
 ケラケラ笑いながら。顔がゆっくりグチャッて潰れてね。気持ち悪かった」
いつも無表情なアキヤマさんが顔を歪めていた。
僕は何も言えず、黙って聞いていることしかできなかった。
「おばさんはナナシにすっごい執着してた。おじさんがよその女と逃げちゃったからかな。
 頭おかしくなって入院してからも、ナナシにはほんとに過剰に。
 だから、あたしが仲良くするのも嫌だったみたい。気持ち悪いよね」
と笑った。
僕はそんなナナシの過去は初めて聞いたし、そんなふうに笑うアキヤマさんも知らなかった。
でもアキヤマさんの話は終わらず、僕にとって最も衝撃的な一言を発した。
「屋上にはナナシがいた。この、あたしが立ってる位置に」

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ラベル:ナナシ
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2008年02月09日

最後の夜


937 :藤:2008/02/09(土) 21:41:46 ID:VzEQ8g3SO
物事には終りというものが必ずあって、それは突然に訪れるものだと知ったのは、15の冬の終盤だった。
卒業を目前に控え、慌ただしく日々が過ぎる中、僕の親友は学校を休みがちになった。
以前は学校を休む事などほとんどなく、たかが一日休んだだけで心配して見舞いに行ったくらいなのに、
ここ最近は、教室にいるのを見ることが珍しいほど、彼は学校に来なかった。
時々学校に来ても、何を聞いてもヘラヘラ笑うだけで何も言わなかった。
会う度に目の下の隈は濃くなり、見るからに痩せて、声は掠れている。
それを心配しても、なんでもないと言い切り、そして他愛のない話をしては、またヘラヘラ笑って帰って行く。
そして次の日は来ない。それの繰り返しだった。
でも、そんな物足りないほど他愛ない日常も、幸せだったと気付く事件が起きた。

その日、やっぱりナナシは休んでいた。そのことに特別何も思うところはなかったが、帰り際。
「藤野、七島にコレ渡しといてくれ」
進路関係の書類をナナシに届けて欲しいと、担任から頼まれた僕は、ナナシに渡しに行くハメになった。
怖い思い出しかないナナシ宅に行くのは気がひけたので、電話で公園に呼び出すことにした。

そして夕方、ナナシはやって来た。随分とフラついた足取りで、ヒラヒラ手をふりながら。
隈はますますひどくなっていて、流石に僕は心配し、ナナシを問詰めた。
「お前、どうしたんだよ」
「別に、なんもないよ?」
「んなわけないだろ。なんだよその隈。頼むから…答えてくれよ」
真剣に言った。
するとナナシは、ゆっくりと静かに言った。
「成功したと、思ったんだ。うまくいったって」
絶望的な笑顔をナナシは浮かべていた。泣笑いとでもいうのか、無理矢理笑ってるような表情。
「何が」と訪ねると、ナナシは声を震わせて言った。
「…大丈夫。今日、全部終わらせるから」
ナナシはいつものようにヘラヘラ笑った。
終わらせるって、なにを。そう思ったけど、聞くことはできなかった。
何故かその時、ナナシが別の世界の人のように思えた。

ナナシと別れてからも、頭の中はナナシが何をする気なのか、そのことでいっぱいだった。
自棄を起こさなきゃいいが、ナナシなら何をしでかすかわからない。
墓でも荒らすのか、黒魔術でもやるのか、見当がつかなかった。
ナナシが言う『成功したと思った』ってことの意味もわからなかった。
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ラベル:ナナシ
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